子どものころに食べたものは、かなり記憶に残りやすい。それをとてもおいしく感じていたならなおさらだ。久しく食べていなかったとしても、想起される記憶が、鮮やかにその味を思い出させる。たとえそれが、別の調理をされていたとしても。
「いただきまーす」
いつものベンチで3人そろい、それぞれが弁当の蓋を開ける。今日は全員が弁当を持ってきている。中を見ると、ふたりとも弁当の中身は進化していた。おそらく昨晩作ったものをお弁当に詰めるという技を覚えたのだろう。当然だ、という考えもあるかもしれないが、翌日に弁当として持っていくという考えが全くないまま作ったものでは、弁当に持ってくることはできない。ラーメンとか、うどんとか。
必要に迫られて行動をすると、人は成長するというが、そんな一面を見ている気がする。自分はもともと身に着けていたスキルで料理をしているだけなので、成長している二人を見るの少し面白い。
「これ、もってきたんだ」
そういいながら弁当を食べている二人の手が届くところに、タッパーを置いた。二人の顔が輝く。
「お、なんかおすそ分けってやつか?」
「やった」
「昨日、課題を無事に出せたから、そのお礼。エクセルのコツは役に立ったし、追加で色々と相談に乗ってもらったでしょ?」
「豚からあげ丼のお礼だったのに、いいのか? お礼にお礼をもらっている感じがするな」
「今度なにか返さなくちゃね」
そんなことを言う二人の視線はタッパーにくぎ付けだ。ふたを開けるとのぞき込んでくる。
「見たことないな。何かの揚げ物?」
「にんにくに似てるねー。とっていい?」
「どうぞ。こっちじゃあまり食べないものかもしれないけど」
うなずいて見せると、二人は躊躇なく手を伸ばしてきた。見たことがなくても、自分が作ったものに対して一定以上の信頼を寄せてくれているらしい。
ちなみに、タッパーの中身は、ゆり根に片栗粉をまぶして油で揚げたものだ。
ゆり根とは、ユリの球根のことだ。ユリ科の植物には、チューリップのように球根ができる。チューリップの球根には毒があるので食べられないが、ユリの中には球根に毒を持たないものがあり、それが一般にゆり根として売られている。
調理方法は簡単だ。鱗茎という鱗を重ねたような形をしているので、これを一枚一枚はがして調理する。玉ねぎとかと一緒だけど、ゆり根は玉ねぎと違って皮はない。
たまたま昨日スーパーでゆり根を見つけ、懐かしさから買って簡単に料理してみた。関東では少し珍しいのではないか、そう思ってはいたが、ふたりともどうやら食べたことがなかったらしい。
「やっぱり、初めて食べるな」
「おいしいけどね。で、これなに?」
「ゆり根だよ。実家の方ではおせち料理に入ってたりするんだ。私も久しぶりに食べた」
タッパーから一片取り出し、口へ運ぶ。じゃがいもやニンニクを混ぜたような食感や風味。おせち料理では煮たりゆでたりして食べるのが一般的だから、この料理とは似ても似つかない。それでも十分に懐かしいと感じる味だ。
ゆり根の旬は秋から冬。正月料理に使われるのは、鱗茎の形からを重ねるとか、無病息災とかの意味合いがあるらしい。栽培は北海道がほぼほぼらしいが、収穫までに5,6年はかかる手間のかかる作物だ。畑に植え付けするまでに3年もかかるらしい。
でもそれだけ時間をかけているだけあって、栄養もたっぷりで昔は薬扱いだったとか。子供のころ、母がそう言っていた。
「ゆり根っていうのか。知らなかったな」
「そのまま、本当にユリの根っこ?」
「そうだよ。根っこ、というか球根だけど。あ、食用じゃないユリの球根には毒があるから、その辺のやつ食べちゃダメだよ?」
「マジか。アパートの裏にユリが咲いてるけど、食べちゃダメなんだな……」
友人の言葉に思わず笑みがこぼれる。
自分も昔、似たようなことを母に言ったものだ。そして絶対にダメだと怒られた。
「花、葉っぱ、茎、根っこ。ダメな奴は全部だめなんだって。おなか痛くなったり、吐いたりとか。小さな子供がやると、危ないよね」
だから母は、自分の言葉にかなり怖い顔になっていた。それも懐かしい。
「なるほどね。それにしてもおいしいね、これ」
「ビールが欲しいぞ」
「そうだね。確かに、お父さんがそう言いそうな味だよね」
あいにくまだ二十歳じゃないし、ビールを飲みたいということもないので、その気持ちはわからない。しかし今度実家に帰った時に、父に食べさせてもいいかもしれない。きっと喜ぶだろう。
「とまらん」
「スーパーで見たら、絶対買う」
そう言いながら楽しそうに食べる二人を見ながら、再び自分もタッパーから一片をつまみ、口に入れる。
本当に、懐かしい味だ。いろいろと思い出す。


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