金があるなら外食すればいい。コンビニ飯も悪くはないが、やはり手で作った料理には敵わない。だが外食をずっと続ける経済力を持つ人はまれで、そして自分はそうではない。だから現実的な選択肢は自炊になる。
一人暮らしを始めて早数日が立った。荷解きを終え、ようやく住まいと言えるような部屋となった部屋には、詰みあがったコンビニ飯のゴミの山。外食を続ける経済力はないが、コンビニ飯を続ける経済力もまたなく、そろそろ自炊をしないと月末まで生きられない。だが生まれてこのかた、家事などほとんどやったことがない身でどのようなものが作れるだろうか。
だが、そんな自分にも味方はいる。いや、ついさっきできた。
「インターネットは素晴らしい」
ようやく部屋に回線がつながり、wifiが利用できるようになった。今月データの使いすぎて制限を受け、かつ信用のできるフリーwifi以外は使うなとの父の教えに従った結果、引っ越してからほとんどスマホ型の箱と化していたが、ようやく文明の利器として利用できる。
とはいえ、情報はあっても材料は限られる。現在部屋にあるのは両親が送ってくれた物資と卵、牛乳ぐらい。物資の内訳は米とレトルトご飯、ベランダでとれたとかいう生姜、なぜかガラスープ素やめんつゆ。あとはせんべいとかそのまま食べることができるちょっとしたもの。
せんべい他、そのまま食べられるものはすべて食べたが。
「ついにこの時が来てしまったなあ」
ぼやきながらマウスを動かし、適当なレシピを探す。
生まれてこの方ほとんど料理をしたことがない身としては、自炊はできるだけ後回しにしたい選択肢だった。だが後ろ回しといっても金のない身だ。すぐにその選択肢を選ばざるを得なくなった。
自炊するのは仕方がないとして、できれば簡単に、そしてうまいものが食いたい。
「あ、これいいかもな」
目に留まったのは生姜おじやのレシピ。

材料は生姜とめんつゆとご飯、卵、そして肉と野菜か。肉は煮るとだしが出るとか、鍋の時に父が言っていた。その時は鳥肉がなく、肉のうまみ、とかってガラスープの素を入れていたのも覚えている。
ぜんぶあるじゃん。ガラスープの素も含めて。
「あー」
便利だから、と言いながらガラスープの素を荷物に入れる父の姿が思い浮かぶ。ありがとう父。
これでいこう。朝食にはちょうどいい。調理器具もまな板、包丁、鍋、フライパン、お玉ぐらいはある。
まずはレトルトご飯を電子レンジにかけ、その間に鍋でお湯を沸かす。お湯にはガラスープの素とめんつゆを適当に入れる。
「そういえば、おじやとかお茶漬けの前に、ご飯を洗うとサラサラでうまいって母が言ってたな」
温まったレトルトご飯をとりだしながらそんなことを思い出すが、ざるなんてものはない。どうやってご飯を洗えばいいのか。いやいやよく考えると、卵を溶きいれるためのボウルもない。そもそも生姜だってどうやって擦るんだ? これ、実は作れないんじゃね? ……と思っていたら、実家から送られてきた生姜を入れてたのは、小さなボウルとざるのセットだったことを思い出す。ご丁寧に小さなすりおろし器も入っていた。
ベランダで生姜を育てていたのは父だし、父が入れたのだろう。まるで必要になることがわかっていたかのようだ。
エスパーかな?
「これを洗って、これを擦って、全部鍋に入れると」
沸騰していた鍋が、ご飯を入れたことによっていったん落ち着く。その間に卵を割って、ボウルの中で溶く。再び鍋の中が沸騰したところで回し入れる。
「できた、か?」
所要時間は15分もかかってないんじゃないか。
丼に移し、さっそく食べる。
熱いが、うまい。生姜の香りもいいし、めんつゆ、卵、ガラスープがいい味を出している。調味料は計らなかったので適当だがら、これが本来の味かどうか自信はないが、初めての自炊としては、まあいいんじゃないか。
「レシピには肉を入れるとあったけど、確かにそっちの方がうまそうだなあ」
ハフハフ言いながらおじやを完食し、次は肉を入れようと心に決める。
さて、そろそろ時間だ。
「行くか」
荷物を背負い、安アパートから出る。向かうは今春から通い始めた大学だ。少ないが友人もできた。今日はどんな一日となるだろうか。

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