暖かくなると街中でも色々な生き物が、それぞれの音色を奏でるようになる。夜、ベッドに横になって聞こえるのは、様々な虫の音色。うるさいという人も、もしかしたらいるのかもしれないけど、自分は結構好きだった。ああ、この季節になったんだなあと思う。
でも、そんな自分でも、うるさいと思う音を出す存在もいる。大量に群れて木にとまり、夜遅くまで大騒ぎする鳥。あの鳥が鳴くと、ちょっと眠れない。
「というわけで、初めてにしては結構うまくできたと思うんだよ」
「自画自賛か」
自分で作ったおにぎりをかじりながら、友人二人が話す内容を聞く。どうやら一人暮らしを始めて、ほとんど経験のない自炊で美味しいものが食べられたらしい。スマホが使えなかった話とか、レシピを見つけたときの話とか、面白そうに話している。ざるとボウルが荷物の中に入っていたのは少し面白い。
ここは大学の中庭にあるベンチだ。向かい合って設置されており、よく昼食の時に利用している。向かい側に座った友人二人は自分とは性別が違うけど、大学に入ってすぐのころに馬が合ったとしか言いようのない感じで友人となり、昼食はよく一緒に食べる。
「な、そう思うだろ?」
黒髪短髪の彼が、自分に向って水を向けてきた。
「そうだね。ちょっとおいしそう、生姜おじや」
「……なんか、あんまりそう思ってないように見えるなあ」
うなずいた自分に向って、眼鏡をかけたもう一人の友人が不思議そうに見てきた。その視線が少し下がり、膝の上に置かれた弁当箱に注がれる。中には玉子焼きとおにぎり、昨日の残りのハンバーグとゆでたブロッコリーが入っている。
昨日の晩御飯の残りを詰めただけの手抜き弁当なのだけど、それを見た眼鏡の友人がにやりと笑った。
「……ほら、自分で弁当作って昼飯にするような人間からしたら、大した話じゃないってさ」
「そんなこといってないでしょー」
からかいの言葉のようだけど、一応きちんと抗議してから、続ける。
「これはさ、昨日の残りを詰めただけの手抜き弁当だよ。君もすぐに作れるようになるって」
「作れるようになったとしても、やらなさそうだけどな」
苦笑する友人は、今は購買で買ったパンをかじっている。確かに朝の時間に弁当を作るのは面倒だ。
加えて言うと、今日は特に面倒だった。
「にしても、元気なくないか?」
「寝不足なんだ」
友人の言葉にうなずいてみせた。
「アパートの近くに公園があって、そこに大きめの木があるんだけど、そこがムクドリの寝床になってて……」
ムクドリ。
全長は大人の手のひらぐらい。春から夏にかけて子育てをして、それが終わると群れるようになるのだそう。

ねぐらに集まったムクドリは、すぐには寝ない。寝る前のおしゃべりが激しい。日が変わる直前まで夜更かししたりもするし、うるさくってこっちも寝られない。
「ムクドリってそんなんなのか」
「あー、遠くでぎゃあぎゃあ騒いでいる鳥の声、聴いたことあるかも。迷惑だな」
「虫を大量に食べるから、人間の役にも立ってるんだけどね。ムクドリの寝床になった木の下は糞もいっぱいになるし、公園の木だからそのうち枝が伐採、じゃなかった、剪定されるよ。そしたらどっか別のところに行くよきっと」
それまでの辛抱だ。
ムクドリは農作物に害を及ぼす虫を食べてくれるけど、都市部では害鳥としかいいようがない。それだけ自然がなくなり、また農地もなくなっているということかもしれない。
「蝉の声はうるさいとは思わないんだけどねー」
こっちは夜も明るいからか、夜間に鳴く蝉もいるけど。
長く土の中で幼虫で暮らして、ようやく大人となったら残りの寿命は一週間。その一週間を必死で生きている虫。季節を感じることはあっても、うるさいとはあまり思わない。……窓についてなかれると、ちょっとうるさいと思うけど。
「外国じゃ蝉の声って騒音扱いなんだっけ。日本人はあまりそう思わないらしいけどね」
「感覚的な違いなのかもね。あー、今日は眠れるといいなあ」
溜息をついた私の耳に、スマホをでムクドリのことを調べていたらしい友人の、ぼそりとしたつぶやきが聞こえた。
「マジか。ムクドリって蝉食べんの?」
聞かなかったことにした。


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