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5 魚が遠い

 実家にいる頃は、魚を食べることが多かった。母がよく作ってくれたからだ。それを当たり前のように育ったからか、一人暮らしを始めて魚が恋しい。普段から当たり前のようなものがなくなると、結構来るものがある。

 大学に入り、一人暮らしを始めてしばらくが経った。自分が住んでいるこの部屋は、セキュリティ的にはそれなりでも部屋自体は狭い。台所も狭い。一応自分も年頃の娘なわけで、セキュリティがいい部屋というのは重要だけど、この台所が狭いというのは、昼食も含めて自炊がメインである自分にはちょっと辛い。

 そう、コンロにグリルがないのだ。あるのはガスコンロが一つだけ。おかげで魚を焼くというのが億劫で、最近魚を食べていないという状況。

 フライパンで魚を焼くというのもやれなくはないけど、やっぱりコンロで焼いた魚にスダチかなにかをかけて食べたいという欲求の方が勝る。それが食べられないなら、とりあえずいいかな、なんてことを考えているうちにかなり日が経った。

 もはや限界だ。魚が食べたい。しかしこの期に及んで焼き魚を食べるのはなんだか負けた気がするので、別のものを食べることにする。

 よし、アジをさばこう

 アジは美味しい。実家でも丸のまま買ってきて、母が家でさばいたものを刺身で食べたりしていた。自分でもやろうと思えば、たぶんなんとかできるはずだ。生ごみが出るのが難点だけど、明日はゴミ出しの日。今日こそがアジを食べる日なのだ。

「というわけで、買ってきたわけなんだけど」

 目の前には3尾のアジ。近くのスーパーで刺身用として売られていたものを買ってきた。これを3枚卸しというやつにするわけだけども。

 正直、ちょっと及び腰になっている。

「初めて捌く魚としては、アジはレベルが高かったかなあ。イワシの方がハードルが低かったかもしれないなあ」

 なにせ、イワシは手でさばけるらしい。あまり実家では食べないけど、母がそう言っていた。頭をもぎって、腹をちぎって、内臓を指でかき出し、中骨をはがして取り除くのだとか。

 そう……素手で。

 ……イワシの方がハードルが高いかもしれない。アジにして正解だった、ということにしよう。

「えっと、まずは……」

 近くに置いたスマホの動画を見ながら、手順を確認する。それにしても、文明の利器というのは素晴らしい。大学の友人が似たようなことを言っていたけど、知らないこと、経験のないことを手軽に学ぶことができるのは、やっぱり便利だ。

 

見たらやってみたくなるアジの捌き方 with English subtitle

 スマホを見ながら、少しずつさばいていく。まずは鱗をとった後で、しっぽの方から腹回りまで伸びているぜいごっていうぎざぎざを切り取る。次は頭を切り落とす。ステンレスの安包丁でも結構切れるものだ。

「さて、と」

 次は……腹を切って内臓をとる。心理的に、一番の難関だ。無心にやる。そのあとは水でおなかの中を洗いながらきれいにする。中骨についている血の塊をとると、臭みが減るらしい。

「よし」

 取り除いた内臓を小さなごみ袋に入れて縛る。封印完了。あとは捨てるだけだ。ちょっと気が楽になった。

 あとは中骨と身とを切り分けるだけだ。ここでうまくやらないと身が骨についてしまうらしいが、初めてなのである程度はあきらめている。見よう見まねでさばく。

 あとは皮をはいで、お刺身にすれば終わりだ。刺身は不格好だけど、今回はよし。

 炊き立てのご飯と一緒に食べる。

「あー、おいしい」

 これだ。これが食べたかった。定期的にやればもっと上手になるだろう。

 それにしても、と残った中骨と切り落とした頭を見る。わかっていたことだけど、下手な包丁のせいでアジの身が結構ついてしまっている。

「もったいないなあ。どうしようかなあ」

 とりあえず調べてみようか。何かいい方法があるかもしれない。

 そんなことを考えながら、スマホで検索を開始した。 

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