ドクダミという植物の名前を聞いたことはあるだろうか。お茶などで売られていたりする、あれだ。子供のころに毒消しの効能があると聞いて、毒蛇にかまれたらドクダミ茶を飲めばいいのか、などと理解していたものだ。……もちろん実際には効かないが。
「こんなの作ってみたの」
昼休み、いつも通りに3人で昼食をとった。最近では全員が自作のお弁当を持ってくることが多くなってきている。とはいえいつも気合を入れた弁当を作っているわけじゃない。自分などはウインナーとブロッコリーを同時にゆでて、そのままおかずとして詰めてくるというようなことはよくやる。今日のメガネの友人に至っては、半分に切られたフランスパンをそのまま持ってきている。……まあ確かに、そのまま食べてもうまいけどな、フランスパン。
ともあれ、たまにご相伴にあずかれる彼女のおかずには大変救われていたりするわけだ。そんな彼女も、たまには梅干しおにぎりが二つだけなんてこともある。今日がそうだ。そんな状況を理解していたからこそ、弁当を食べ終わった後での彼女の言葉に、少し首を傾げた。
「デザート?」
眼鏡をかけた友人も彼女の手元をのぞき込む。
「スイーツ?」
「残念。食後のお茶」
カバンから彼女が取り出したのは、いつも食事の際に利用しているものとは違う、少し小さめの水筒だ。
「お手製のお茶ってことになるんだけど、飲んでみる?」
お手製ということは、日本茶とかじゃないだろう。ちょっと普通じゃないお茶が出てくる可能性があるが、せっかく作ってきてくれたのだから、否やはない。
「当然もらいます」
「ありがたやありがたや」
手まで合わすメガネの友人に笑いながら、彼女は紙コップを配った。わざわざ持ってきたらしい。そこに水筒からお茶が注がれる。茶色の見た目だが、麦茶やウーロン茶とは違う、少し薄めの色。
匂いは独特。口にしてみると味も独特。初めての味だ。
「薬っぽい感じか?」
眼鏡の友人もうなずく。
「結構クセがあるね。ちょっと飲みにくいかな? でもどこかで口にしたような気も……」
「ドクダミ茶だよ。今住んでるアパートの北側にいっぱい生えてて。適当に採取して、干してみました」
「あ、それだ。ばあちゃんちで飲んだやつ」
眼鏡の友人の言葉に、自分も思いだす。昔、祖母に教えてもらったことがあった。
ドクダミはハート形の葉っぱに、独特のにおいがある植物だ。葉っぱの裏側を指でこすって匂いをかぐと、かなり臭かった記憶がある。あと特に記憶に残っているのは、花だ。白い花びらと思っていたものは、実は葉の一種で、真ん中の黄色い部分に小さな花が密集している、というものらしい。祖母が教えてくれた。
湿地や水辺などの湿潤な環境を好み、日陰っぽいところに生息する。繁殖力は強く、野山や空き地などいたる所で見ることができるらしい。考えてみると自分が今住んでいるアパートの近くにも生えていたような記憶がある。
そういえば、祖母が言っていた。
「確か、食べることもできるんだっけ」
「よく知ってるね。そうだよ。葉とか茎はサラダや炒め物、鍋料理とかも。結構香りが強いけど、この独特の風味がくせになったりするんだよね。好みは分かれそうだけど」
てんぷらとかおいしいんだ、と彼女は笑った。祖母も同じようなことを言っていたと思う。いざという時の非常食に良い、と。
ドクダミは栄養も豊富だ。昔から風邪や発熱などの症状緩和にも使われてきたらしい。ビタミンC、ビタミンA、カルシウム、鉄、カリウムなどの栄養素が含まれ、特に抗酸化物質が豊富なのだとか。免疫力向上、抗炎症作用、デトックス効果が期待できる。特にデトックス効果は体内の有害物質を排出するのを助け、毒消しの効能はここからきている。あと葉には殺菌作用もあるらしく、すりつぶしてシップにしたりもできるらしい。薬草として優秀な植物だ。
「ばあちゃんちで飲んだ時には、ウーロン茶と混ぜてたような気がする」
「匂いが抑えられて、飲みやすくなるね」
「俺はこのままでも結構好きだな。田舎を思い出すし」
……田舎というか、祖母を思い出す、ということだが。
最近声を聴いていない。今度、ちょっと電話してみようか。
そんなことを思った。


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