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19 資産とは

 貯蓄から投資と言われて久しい。貯金は金が減らないが、インフレによって価値が下がるということは起こりうる。だから投資をしてお金に働いてもらう、という考え方が生まれる。資産を得るということが大事だ。

 本日は雨だ。ランチにいつものベンチは使えない。仕方がないので、いつもの3人で学食の端っこを借りて弁当を広げることにした。ここの学食は弁当持ち込みが特に禁止されていないが、何せ混む。だから普段は外のベンチを利用しているが、今日は仕方がない。

「元気、ないねー」

 おにぎりをかじりながらそう声をかけたのは、隣に座る女性の友人。声をかけられたのは、向かい側に座る眼鏡の友人。その眼鏡の友人は確かに元気がない。あんぱんをもそもそとかじるその目は、死んだ魚を彷彿とさせる。

「あー、うん」

 眼鏡の友人は食事の手を止めると口を開きかけ、そして言葉を発することなくそのまま突っ伏した。

「……どしたん?」

「だいじょうぶ?」

「ダメかもしんない……」

 うめくような返答に話を聞いてみれば、どうやら教授との面談があったらしい。なおここでいう教授は、共通の単語となっている。教授と面談と言えば思い当たるものは一つだけ、単位が危ない学生に救済措置で面談をしてくれる、とある必修科目を担当している教授だ。面談が良好であれば単位を落とさないでいてくれる。ただしとても日本語に厳しい教授であり、その面談で心折られる学生多数、という。

 幸い自分は、いまのところ面談せずに済んでいる。

「とりあえず出席してればそんなことにはならんだろ?」

「体調不良が数回、ゲームが佳境でさぼったのが数回」

「ダメじゃん。ていうか毎日一緒にランチしてるよね。休んだことなかったと思うんだけど?」

「授業はさぼってもランチはさぼらないから」

「えーと、そうなんだ……」

 授業よりも自分たちとランチをする時間が重要、という意味の言葉を発した眼鏡の友人に、女性の友人がなんとも形容しがたい表情を浮かべた。困ったような、それでいてちょっとうれしいような。気持ちはわかる。

 そういえば高校のころ、体調不良で授業を休みつつ、放課後の部活だけは出に行ったことがあったなあ、なんてことも思い出した。

 とはいえ。

「いやいや、そもそも授業をさぼるな。それも必修科目を」

「朝一にあるのがいけない、と言い訳しておく。ともかく、悪あがきで敬語について復習して行ったんだけど、普段使い慣れてないからもうボロボロ。おまけに最後『ひどい日本語でしたね。大学生なのだし、そもそも日本人なのだから、日本語はきちんと使うべきですね。最後に言いたいことはありますか』って言われて、『的を得た指摘ありがとうございます。また汚名挽回の機会をいただきありがとうございました』なんてことを、てんぱって言っちゃった」

「的は射るものだな……」

「汚名も挽回しちゃダメだと思う……」

「……わかってるんだよ。しかし! あのときは!」

 絶対落とした……そううめく眼鏡にため息をつきつつ、声をかける。

「まあ、あれだよ。何事も経験だよ」

「まだ一年だし、全然挽回可能だって」

 そんな感じで隣の友人と慰め続け、しばらくしてようやく眼鏡の友人は再びあんぱんをかじりだした。

「……手痛い投資だったと思うことにする」

「投資? 勉強代じゃなくて?」

「投資だったらそのうち倍になって戻ってくるかもしれない……」

「ああ、なるほどな」

 眼鏡の友人の言葉にうなずく。昔、父親が言っていた。投資とは資産を手に入れる行為のことで、資産とは利益を生むものであると。

 わかりやすいのは株式だろうか。

 株式を購入すれば配当が見込める。企業価値が高まれば株式の価値も上がるので売却益も見込める。短期的にマイナスになることはあっても、中長期的にはプラスになることが多いという。なぜなら世界は右肩上がりに経済が成長し続けているからだ。そして右肩上がりだからこそ、貯金されたお金はやがてインフレによってその価値を下げる。貯金だけでなく、投資によって資産を得ておく意味がそこにある。

「資産かあ。……負の資産ていう言葉も聞いたことあるんだけど?」

「……この経験によって、今後よくないものを引き寄せるのなら、そうかもね」

 女性の友人の言葉に、口を引くつかせる眼鏡。存外舌鋒がするどい。だがこれも投資の神髄かもしれない。資産だと思って手に入れたものの価値が、手に入れるコストを下回るということも、往々にしてよくあることだからだ。

 先ほどの株式の話もそうだ。多くは右肩上がりになるが、あくまで多いだけで、マイナスになることも当然ある。全体的に、長い目で見て右肩上がりというだけなので、固有の株式では損をしたり、瞬間瞬間で損をしたりというのは普通にある。

 要はギャンブルにならないようにする必要があるのだ。レバレッジを利かせて、短期の値動きから利益を取ろうとするようなFXなんかは、投資ではなく投機だ。1万円を担保に百万円を借りて、1万ドルを購入するというようなことをするので、勝つときはドカンと勝つが、負けるときも悲惨な目に合う。

 退職金がなくなった知り合いの話をしながら、レバレッジを利かせたFXには手を出すな、と父にこんこんと言われた。

「投資の基本は時間を味方につけて、ゆっくり金の生る木を育てることだって父がいってたな」

「この経験が、すこしずつ良いものを引き寄せれば、今回の手痛さの何倍も得するってことだね」

「貯蓄より投資っていうからな!」

 昨今、銀行にお金を預けてもほとんど増えず、インフレリスクの方がまずいという状況だ。インフレは物の価値が上がっていくことによって、相対的にお金の価値が下がる。100円で買えていたものが120円になれば、その分日本円の価値が下がったということになる。年3パーセントのインフレが起これば、24年で貯金の価値は半減する。逆に言えば、年3パーセントで資産の運用ができれば、その価値は24年で倍だ。

「どんどん、投資していこうぜ。痛い目に合っただけ成長するぞ」

「あ、でも投資した分のリターンはきちんと手にしないとだめだよ? 授業は朝一でもでること。必修ならなおさらだよ」

「……わかってますよ!」

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