魚は美味しい。その種類は多く様々で、料理方法もまた様々。しかし食べたことのない魚を自ら手に取って、料理して食べるという気にはなかなかならない。イワシやアジ、鮭、サバやサンマといった見知った魚ばかりを選び、一度は食べたことがある食べ方で食べる。しかしスーパーの鮮魚コーナーにはこれまで食べたことのない魚や、見たことすらない魚がならぶこともある。
「こんなの作ってみたんだけど、味見してみる?」
「しますします」
「おありがとうございます」
小さなタッパーを開きながらの質問に、友人二人が拝み倒さんばかりにしながら顔を寄せてきた。いつも通りのランチの時間に、いつも通りの友人二人。黒髪短髪の友人と、眼鏡の友人。自分と性別の違う友人たちは、仲良くタッパーの中を覗き込む。
「魚の唐揚げ?」
「とにかく、いただきます」
小さなタッパーの中には魚の唐揚げが入っている。頭と内臓をもぎって唐揚げにしたものだが、イワシではない。二人が口に入れるのを見ながら、自分もひとつ、箸でつまんで食べる。
口の中に白身魚の淡白で、しかし深いうまみが広がる。これは脂のうまみだ。ほろほろと口の中で崩れる魚の身も心地よく、余韻を残して口の中から消えていく。
「うまぁ」
「初めて食べた。おいしいね」
二人の反応も上々。どうやら成功のようだ。
「そっか、よかった。ちょっと挑戦だったんだよね。わたしも食べたことのない魚だったから」
「何これ?」
「メヒカリって魚なんだよ」
メヒカリは、大きさ約10~20cmぐらいの小型の魚だ。名前の通り大きな目が特徴の深海魚で、白身で、脂がのっており、非常に美味しいとされている。特に東北地方や関東地方で人気があるらしい。全部インターネットで調べた。
「実家では食べたことがなかったんだけど、スーパーで見かけて、スマホで調べて、ちょっと買ってみたんだ」
調べたときに深海魚と出て、その見た目から納得しつつも少し及び腰になり、そういえばアンコウやキンメダイ、銀ダラだって深海魚だということを思い出し、結局は購入。
大きさは小さなイワシぐらいだし、まあ何とか調理できるだろうという判断だったが、これなら何度でもリピートできる味だ。
「また見かけたら買ってみよっと。から揚げ以外にも塩焼きとか、干物とかにしてもおいしいんだって」
「これなら、確かにどんな食べ方でもうまそう」
「でもすごいね」
眼鏡の友人が感心したようにうなずく。
「食べたことのないものとかさ、特に魚とか肉とか、俺はちょっと避けちゃうなあ」
「あー、確かに。俺もそうだな。よくやったなあ」
もう一人の友人もうなずく。……少しこそばゆい。
「ありがと。まあ一応、安くて目に入ったっていうきっかけはあったんだけど、食べたことがないから買ってみた、というのもあるかなあ」
経験したことがないものについて、それが安全に経験できる状況があれば、経験しておいた方がよい。そうすることで自分の世界は縦にも横にも広がっていく。
何かを考えたり、行動したりというのは、自分の中から出てくるものだ。だが、自分の中に何もないのに、新しく作られて自ら出てくるものは少ない。外からの刺激、環境によって得たものが、別の形となって出てくる方がずっと多い。
「何事も経験、ていうでしょ?」


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