中華鍋。それは炒め物から揚げ物からなんでもござれの万能鍋。これ一つあればフライパンも揚げ物用の鍋も不要。ただし鉄製なので、油が落ちないように注意が必要である。人によっては、わが子のように大切に育てるものもいるという。
「というわけで、実家から中華鍋が送られてきたわけだが」
大学の昼休み。相変わらず購買で買ったパンを食べながら、昨日届いた荷物の話をする。実家からの物資に混ざっていたのが、中華鍋だった。
母が送ってくる物資は大体がすぐに食べられるものや、すでに調理されたおかずなどが入っていたりするが、父が入れるものはどちらかというとちょっと変わったものばかりだ。
「お父さんから?」
「そう。こんなもんどうすんだよっていったら、チャーハンぐらい作れるようになっとけって言われた」
「そっか。まあ便利なんだろうけど、私にはちょっと重いんだよねえ」
向かいに座って自前の弁当を食べていた女の友人がそういうと、隣に座る眼鏡の友人が首を横に振った。
「いや、いいじゃん、中華鍋。便利だぞ」
「いやいや、おまえ料理しないだろ。そもそもヒョロヒョロなのに中華鍋なんか振らないだろ」
「一人暮らししてたら自炊しないって選択肢はないだろ。それに中華鍋はうちも実家から持たされたんだよ……」
彼はそう言ってスマホを操作。ずると自分のポケットが震え、スマホを取り出すとグループあてにLINEが来ていた。
「そこ、中華鍋を持たせた父がおすすめだって教えてくれたやつ。そのサイトのいくつかはたまに作る。簡単な奴だけだけどね」
サイトを開くと卵チャーハンのレシピがあった。軽く見ただけでもかなり本格的なもののようだ。他のメニューにもそれなりのレシピがあり、簡単中華と本格中華で分けられている。
「あ、なんか古そうなサイトだけど結構いいね。レパートリーが増えそう」
おなじLINEグループに入っている彼女が、スマホを見ながらつぶやく。
そうだろ、と隣の友人がうなずく。
「チャーハンは結構練習が必要だけど、一人前なら何度かやってれば何とかなった。そうなるとほかのレシピとかもちょっと手を出したりするんだよ。特に下ごしらえ系はすぐに使えるし、本当にうまくなるからおすすめだな」
「マジか」
「卵チャーハンができたら、それに具材を混ぜればいろんな炒飯になるからな。ニンニクと生姜と卵、あとは酒とか鶏ガラとか常備するようになるぞ」
友人のその言葉に、思わず意外そうな視線を向けた。大学の勉強とゲームぐらいしか興味がないと思っていたのだが、意外と料理をするらしいと気づいたからだ。
「なんだよ、その目は」
「いや、意外だなと」
「自炊すれば金が浮く。浮いた金で新しいゲームが買える。あとできればうまいものも食いたい」
「お金と美味しいご飯。その二つが自炊の目的だよね。このお弁当もそれが理由」
彼の言葉に、弁当持参の友人もうなずく。
「でもさ、俺こんなのやったことないし、多分失敗するぞ」
「誰にでも初めてはある」
「失敗は成功のもと」
うんうんと二人してうなずかないでほしい。
「失敗したやつはどうするんだよ」
「チャーハンなら、味が薄ければ、韓国のりでまくといいよ。逆に味が濃ければ、普通の海苔でまくといいよ」
「もしも焦げたら、鶏ガラと塩コショウでスープを作って、雑炊みたいにするといいぞ」
一瞬で返答をしてくる二人に、ああ料理をする人たちなのだなと思う。
「……頑張ってみる」
「油ならしはしっかりとね。洗剤で洗っちゃだめだよー」
「金ダワシ買っとけよな。あと教えたサイトの野菜炒めは、そのままチャーハンに混ぜてもうまいぞ」
そこまでにしてくれ。
おなかいっぱいだ。


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